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ケールを1日どれくらい食べると、甲状腺に悪影響が出るんでしょうか?


私も、そのような記事がある事は知っていましたが、通常ではありえないくらいの摂取量で甲状腺機能低下症が引き起こされるという漠然とした記憶に留めていました。

この度、患者様から質問を頂き、改めて勉強し直しました。

ケールとは、アブラナ科の植物で、キャベツの原種に当たるようです。私は日常的にケールを摂取しないので知らなかったのですが、ブロッコリーとチンゲンサイもこの科に属する植物のようです。ケールは、スムージーとして摂取される事が多いんですね。


それでは本題。

ケールはどれほど摂取すると甲状腺に悪影響を及ぼすのか。

私が調べてわかった事は、「1日1kg以上の生チンゲンサイを、数ヶ月に渡って摂取すると、甲状腺に悪影響が出る」という事です。

参考文献は、New England Journal of Medicine誌の2010年5月号内に記載された、「Myxedema Coma Induced by Ingestion of Raw Bok Choy」です。

ここには、生チンゲンサイを毎日1kg〜1.5kg(!?)、数ヶ月(!?)食べ続けた88歳の糖尿病を持つ女性が、甲状腺機能低下症により危険な状態で救急に運ばれてきた症例が報告されています。

もう、考えられないくらいの大量かつ長期摂取です。

英語を読み間違えているのか?と何度か文章を読み直したくらいです。

そして、大量摂取を続けた理由が、糖尿病に良いと考えたらしいのです。

上記報告は、アブラナ科植物に属するチンゲンサイの大量摂取についてのみの症例報告であり、ではケールについてはどうなのか。


アブラナ科植物に含まれるゴイトリン(プロゴイトリン)量について比較されている文献(Nutrition Reviews, Volume 74, Issue 4, April 2016, Pages 248–258,)によれば、複数あるケールの一種(シベリアンケール)には、チンゲンサイの数十倍のゴイトリンが含まれているようです。プロゴイトリン含有量について着目すると、チンゲンサイ:ケール:ハクサイ:シベリアンケール=2.18 : 0〜5 : 20.44: 158。

チンゲンサイ1kgが危険なら、ケールも1kgで危険、ハクサイは100gで危険、シベリアンケールは12gで危険という事となります。


アブラナ科植物の大量かつ長期間の摂取で甲状腺機能低下症が起きる機序ですが、同植物中のゴイトリンが、甲状腺のヨードの取り込みをブロックするからとされています。

ヨードは甲状腺で甲状腺ホルモンを作るための材料で、血液中のヨードは甲状腺細胞の表面に存在するヨードの「扉」を通り、甲状腺の細胞の中に入っていきます。大量のゴイトリンは、その扉が開くのを邪魔するわけです。Nutrition Reviews, Volume 74, Issue 4, April 2016, Pages 248–258, に、大量のケールが放射性ヨードの取り込みを阻害する事について記されています。


注意すべきは、生チンゲンサイ毎日1kgで甲状腺機能低下症を引き起こしたという事が、1日900グラムならOKという事ではないという事です。もしかしたら500gでも生じるかも知れません。


もう、知らない事ばかりです。日頃の疑問を曖昧にしてはダメですね。

専門医として、その場でお応えできなかった事を反省しております。

このような機会をくださった患者様に、心より感謝申し上げます。

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